チンクエ・テッレの旅の始まり

ピサから列車に揺られること約1時間。私が降り立ったのはLa Spezia Centrale(ラ・スペツィア中央駅)です。この港町、ラ・スペツィアはCinque Terre(チンクエ・テッレ)の玄関口となる街で、ここから西に向かい、リグーリア海沿岸に点在する5つの美しい村々を巡る旅が始まります。

駅の背後には急峻な地形とそこに張り付く家々が見え、チンクエ・テッレの気配を感じます。雰囲気は根岸線の石川町駅みたいです。
ラ・スペツィアはイタリア海軍の重要な軍港の所在地で、造船所や軍需工場が数多くあります。広島の呉のような都市でしょうか。中心市街から離れた断崖に集落が点在するところも似ていますね。もっとも、呉の方が都市としてはるかに大きいです。また、ラ・スペツィアがあるリグーリア州は青森県と姉妹都市になっています。なぜかはわかりません。
チンクエ・テッレとは?
「チンクエ・テッレ」はイタリア語で「5つの土地(または村)」という意味を持ち、リグーリア海沿岸に並ぶRiomaggiore(リオマッジョーレ)、Manarola(マナローラ)、Corniglia(コルニリア)、Vernazza(ヴェルナッツァ)、Monterosso al Mare(モンテロッソ・アル・マーレ)の5つの村の総称です。この地域はPortovenere(ポルトヴェーネレ)や周辺の小島群と共に世界遺産に登録されており、独特の景観と歴史を持っています。
かつては漁村として発展し、険しい地形を活かしてブドウやオリーブの栽培が行われてきました。現在では美しい海岸線とカラフルな建物が特徴的な観光地となり、多くの旅行者が訪れています。
なぜ断崖絶壁に村が形成されたのか
チンクエ・テッレの村々は、11世紀に要塞都市として建設されました。以後1000年にわたって隣の村との往来は船で行われていたため、陸路で孤立したこれらの村々には今も往時の面影が色濃く残っています。
平地がなく土地も痩せているチンクエ・テッレの村々で、人々は急斜面の固い岩盤を砕いて石垣を築き、岩盤を砕いた際に出た砂を土壌にして畑を作りました。数百年かけて築かれてきた石垣の総延長は6700 kmに及び、これは日本列島を往復できる距離です。
この、砂で形成された痩せた土地に根付いた作物がブドウです。人々はこのブドウからワインを醸造して生活を成り立たせました。ここで育つブドウはあまり果実をつけませんが、その分ブドウの味が凝縮してコクのあるワインが生まれたそうで、いまでもチンクエ・テッレのワインは高級品です。
チンクエ・テッレを巡る移動手段
チンクエ・テッレを巡るには、トレニタリアの「チンクエ・テッレ・エクスプレス」を利用するのが便利です。観光シーズンの3月中旬から11月初旬まで運行し、15〜20分間隔で運行されています。村どうしの距離は短く1〜3kmしか離れていないため、列車では数分で隣の村に着きます。一方、車で巡るととんでもない山道を走ることになるそうで、列車での旅をお勧めします。
ここを走る路線はピサ=ラ・スペーツィア・ジェノヴァ線(ferrovia Pisa-Genova via la Spezia)で、イタリアの主要鉄道路線です。ローカルな列車がゆっくりトコトコ走ると思いきや、高規格な線路が全線複線電化されていて、チンクエ・テッレ各駅のホームで待っているとかなりの高速でジェノヴァやミラノへ向かう特急列車が通過します(160kmくらい?)。結構怖いです。

また、「チンクエ・テッレ・カード」という観光パスも便利です。私は電車乗り放題と有料トレッキングルートが利用できる「チンクエ・テッレ・トレインカード」を1日分購入しました。もしかすると都度払いのほうが安かったかもしれませんが、乗り放題パスの方が気軽に移動できて、精神衛生上良いと思っています。
ヴェルナッツァの宿にチェックイン
今回の旅では、5つの村のうちリオマッジョーレ、マナローラ、ヴェルナッツァの3つを巡ることにしました。ラ・スペツィア起点ではこの中で一番奥に位置するヴェルナッツァに宿を確保したので、まずはそこへ向かいます。


ヴェルナッツァの駅はトンネルの中でした。駅を出ると列車がわずかな地上区間に顔を出しており、雰囲気は東海道新幹線の熱海駅や山陽新幹線の新神戸駅です。なお、熱海と新神戸は駅がトンネルに挟まれているので、ヴェルナッツァとは逆です。


駅から宿へ向かう途中は観光客でとても賑わっていました。ここリグーリア海岸は南フランスから続く「リヴィエラ」の一部であり、国際的な観光地です。見たところ、ヨーロッパの観光客がほとんどでした。ドイツやイギリスから太陽を求めて地中海にやってくる、と聞いたことがあります。


ヴェルナッツァは海沿いに開けた美しい村ですね。こんな素敵なところで一夏を過ごしてみたいものです。


チェックインを済ませて荷物を置いたら、さっそくリオマッジョーレへ向かいました。
最大の村、リオマッジョーレ

リオマッジョーレはチンクエ・テッレ最東端に位置しており、ラ・スペツィアを出発した旅人が初めて出会う村です。また、チンクエ・テッレ最大の人口を有する村です(約1,400人)。トレニタリアの駅からリオマッジョーレの村へは少々歩く必要があります。




道中、急な階段を登ったり降りたりを何回か繰り返して村にたどり着くので、断崖絶壁の地形を実感します。そして、この断崖絶壁を颯爽と駆け抜ける鉄道を造ったことに改めて驚かされます。

目の前には青く輝く海が広がり、村はもうすぐです。


港から見るカラフルな街並みは、まさにチンクエ・テッレらしい風景。ここリオマッジョーレは、観光業や漁業、農業を営むのどかな村。色とりどりの建物が並ぶ街並みはどこも美しく、フォトジェニックです。

あれは宿でしょうか、家でしょうか。どちらにせよ、贅沢な空間で羨ましいです。



とんでもない高さから飛び込んでいる人がいて震えました。そして皆さん泳ぎが上手いです。地中海は塩分濃度が高いので、よく浮くのでしょうか。次に来たときは泳いでみたいと思います。

次の村、マナローラで夕日を見ながら夕食を食べるため、リオマッジョーレの”PIZZERIA KEPRIS”でマルゲリータピッツァをテイクアウトしました。マナローラはあまりお店がないのです。




ピッツァを持って列車に乗るのはよろしくないと思ったので、マナローラまで歩いて行きました。マナローラとは「愛の小道」で繋がっています。
マナローラで夕日を
マナローラはチンクエ・テッレのなかで最も有名な村だと思います。マナローラそのものの名前が有名というよりは、「チンクエ・テッレの風景=マナローラ」というイメージです。

マナローラのビュースポットに着くと、私が憧れていたチンクエテッレの姿がありました。



断崖絶壁に張り付く色とりどりの家々、はるか上まで広がるブドウ畑が目に飛び込んできて、この土地に暮らす人々の強さを感じることができます。

この憧れの土地を眺めながらピザを丸々1枚いただくという、たいへん贅沢な時間を過ごすことができました。



継ぎ足し継ぎ足したであろう密集した家屋、澄んだ海と白波、度胸たっぷりの海水浴客。どれもマナローラの印象的な風景を作り出していると思います。

私が立っていたビュースポットはもっと混んでいるかと思いましたが、私ともう一人くらいしかサンセットを見る人はいませんでした。皆どこでサンセットを眺めるのかと思ったら、もう少し下、岬の先端付近に人がたくさんいました。船から眺める最高な人々もいます。

ついにサンセットがやってきました。控えめな雲が綺麗で、最高の瞬間です。この光景を抱いてずっと生きていけそうな気がします。

日が没したあとに夜景を撮りました。マナローラの夜景はなんだか暖かくて、海を守ってくれている感じがします。
その後、ヴェルナッツァの宿に戻りました。なんやかんやで疲れていて、爆睡でした。紫外線を浴びると疲労は段違いです。
ヴェルナッツァで静かな朝を



翌朝は、ヴェルナッツァを散策しました。朝のやわらかい光が注ぐ海と村が綺麗で、なんて気持ちのいい村だろう、と思いました。

人混みの少ない朝の時間、村の魅力を堪能できました。フィアットのバンがたくさんいて、街の息遣いを感じます。チンクエ・テッレに泊まる人は少ないというか、そもそも泊まれるところが少ないので、なかなかの特権です。多くの観光客はラ・スペツィアやジェノヴァを拠点にするそうです。



上に登ってヴェルナッツァを俯瞰してみます。とても急な階段を登り、高度感に圧倒されます。本当に、なんてところに生活を築いたのだ…とおそれてしまいます。

ほんの少しだけ見えているヴェルナッツァ駅。本当によく造りましたね…

途中、家を修理している方がいました。こうやって、ずっとずっと大切に村が守り継がれてきたのでしょう。家の玄関へのアプローチも尋常ではない景観です。
次はヴェネツィアです
チンクエ・テッレは日帰りで訪れる方がほとんどだと思いますが、正直1泊でも物足りなかったです。次はゆっくりと滞在し、他の2つの村も巡りたいです。特にコルニリアの丘からの眺めや、モンテロッソ・アル・マーレのビーチでのんびり過ごす時間を楽しみたいと思います。地元の高いワインや海の幸も、もっと味わいたいですね。


通りのベーカリーで軽食を買って、ヴェルナッツァの駅から列車でラ・スペツィアに向かいました。
ということで、次回はヴェネツィアです。ヴェネツィアもまた、旅のハイライトとなった最高の都市でした。
それではおやすみなさい。